「助けて…くれたのは、あなただったのか」
その言葉が、心の奥に響いた。オリヴィアは答えられない。彼女には、もう“声”がない。
歌うことで魔法を紡ぐ“祝歌の魔女”オリヴィア。けれど今は歌えない。幼い日に助けた黒竜との出会いで、代償に“声”を失ってしまったのだ。
あの日のことは、ずっと胸の奥にしまっていた。まさか、そんな過去が数年の時を経て、“婚約”という形で蘇るとは──誰が想像できただろうか。
「お前は、私の花嫁だ」──婚約の理由が“命の恩人”なんて重すぎる!
黒竜リベルト。いまや彼は、“竜王”として王国を統べる存在だった。けれどその姿は、かつてオリヴィアが助けた、傷ついた獣のままだった。
彼は彼女を忘れてなどいなかった。
「お前は、どこにもやらない。私の花嫁になれ」
──それが、彼の答えだった。
けれどオリヴィアにとっては、晴天の霹靂だった。ただ助けたかっただけ。自分の声と引き換えに救った命。その報酬が“政略結婚”だなんて、誰が納得するというのだろう。
「言葉にできないなら、私が伝える」
リベルトの目は真剣だった。無口で不器用で、だけど一点の曇りもない瞳。彼は、彼なりのやり方で彼女を守ろうとしていた。
側近たちの“花嫁争奪”戦線と、声なき花嫁の“無言の抵抗”
王宮では、王の花嫁選びを巡って、側近たちが騒ぎ始めていた。
「強い魔女こそふさわしい」
「血筋が重要です」
「異国の公女との外交カードに」
そんな声が飛び交うなか、オリヴィアは明らかに“対象外”だった。
魔法が使えない。声も出ない。誇れるものは何一つない──周囲の評価はそんなものだった。
けれど、リベルトは言った。
「お前にしか、できないことがある」
それは、誰よりも自分を救った存在への誠意だった。
歌えなくても、心は歌っていた。言葉のないラブレターのような恋
オリヴィアは自分の声を失っても、決して心を閉ざしてはいなかった。彼女は視線で、筆談で、笑顔で、リベルトと向き合っていく。
たとえば──朝の光の中、庭に咲いた小さな花を手渡す時。
たとえば──苦しむ彼のために、自ら薬湯を調合して差し出す時。
「ありがとう」とも「好き」とも言えないけれど、伝わる想いが確かにあった。
リベルトもまた、不器用なやり方でそれに応える。王としてではなく、“ひとりの男”として。
「言葉がなくても、俺はお前の声を聞ける」
この台詞を読んだとき、胸がぎゅっと締め付けられるような切なさと、温かさが同時に押し寄せてきた。
黒竜と魔女の“政略”が“純愛”に変わる瞬間を、あなたの目で
この物語の魅力は、“静かに燃える感情”にある。
盛大なプロポーズもなければ、キラキラした王宮ロマンスでもない。けれど、だからこそ一つひとつの表情、一言の重みが胸に刺さる。
特に、描き下ろしSS「我慢が出来ない」では、リベルトの“我慢しない本音”が炸裂。甘さというより、“猛獣の執着”すら感じられる瞬間に、思わずページを戻って読み返したくなるはず。
そして、山下ナナオ氏の繊細なイラストが、それを完璧に視覚化してくれる。リベルトの鋭くもどこか不器用な眼差し、オリヴィアの静かな微笑。どれも“この物語にしかない美しさ”を宿している。
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声を失った魔女と、無口な竜王。
言葉を持たないふたりが、世界でいちばん優しい会話を重ねていく──。
『黒竜陛下の政略花嫁 魔女ですが、助けた竜に嫁入りさせられそうです』は、恋が“音”ではなく“心”で伝わることを教えてくれる、静かで熱い珠玉のドラゴン・ラブロマンス。


