「まさか、私が子守歌のために婚約させられるなんて…そんな話、聞いたことない!」
その日、希代の歌姫キリアは、優雅な王宮から一転して、見知らぬ屋敷の前に立っていた。亡き国王が寵愛してくれた癒しの祝歌は、王女をも微笑ませる魔力を持っていた。だが王の崩御と共に、彼女の穏やかな日々は一瞬にして霧散した。
次の行き先は、ポンコツ新米賢者アリスターの婚約者としての生活。
──聞いてない、それ、絶対聞いてない。
屋敷の扉を開けた瞬間に現れたのは、ひどい寝ぐせと深い隈に覆われた青年。これが噂の“破邪の賢者”?どう見ても寝不足のただの人。
「…もしかして、あなた、眠れない呪いとかかかってます?」
その通りだった。
「不本意」な出会いが、じれったくて甘すぎる運命を連れてくる
アリスターは優秀すぎる魔力の持ち主。だがその力ゆえに、常に魔的な干渉を受けてしまい、“眠ること”すら難しい呪いを抱えていた。強い浄化の力を持つキリアの祝歌だけが、唯一彼を深い眠りへと誘うのだ。
「どうしてそんな顔で眠るの…」
最初はただの“子守歌要因”として連れてこられたキリアだが、彼の無防備な寝顔を見るたび、胸の奥がやさしく疼くようになる。
一方でアリスターも、祝歌を聴くたびに心が穏やかになる自分に気づき始めていた。
「…お前の声が、世界のどんな魔術よりも俺を救う」
その言葉が、キリアの心を静かに震わせる。
キャラの掛け合いが最高すぎて笑って泣ける!
かいとーこ氏の筆致は、シリアスな設定の中に絶妙なコメディ感を織り込む名人芸。
アリスターのポンコツっぷりは天元突破レベルで、寝ぼけたまま魔術暴走したり、召喚失敗で屋敷の猫を巨大化させたり(※その後キリアの歌で鎮静化)、とにかく飽きさせない展開が連続する。
キリアのツッコミもまた秀逸で、真面目で芯のある彼女が時折見せる“怒りを呑み込んだ笑顔”がたまらなくリアル。二人の距離感の変化をじっくり楽しめるのも、本作の大きな魅力だ。
春野薫久氏のイラストが「幸せそのもの」
特典SS付きの電子版では、春野薫久氏による描き下ろしイラストも収録されており、そこに描かれた二人はまさに“幸せの瞬間”。
たとえば、夜のバルコニーで毛布にくるまりながら子守歌を聴くアリスター。彼の腕の中でそっと微笑むキリア。背景には優しい月と星。たった一枚のイラストが、物語すべてを語ってくれる。
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甘くて、ちょっと笑えて、時に涙がこぼれる。
『歌うたいの不本意な婚約』は、運命のような優しさが詰まった、読む癒しの一冊。


