「その本……買い戻すには、私があなたの店で働けばいいのですね?」
ジールは唇をかみながら、目の前の男を睨みつけた。彼の名はアンセル。魔道書専門書店《オルデンバウム》の店主にして、美しすぎる微笑とともに悪意を隠し持つ――危険な人物。
盗まれた天使の魔導書<アーク・セレスティア>。その行方を追っていたジールは、ようやくその稀書をこの男の店で見つけた。しかし、彼が提示した条件はあまりにも一方的だった。
「報酬はその書で。対価として、君の魔術と時間を預かる」
優雅な言葉で包まれた“悪魔の契約”。それでもジールには、他に選択肢はなかった。
「見た目は天使、やることは悪魔」――アンセルという存在の魔性
アンセルの何が厄介って、その全てが“誤解を生む完璧さ”に満ちていること。
白金の髪、氷のような瞳、理知的な物腰、完璧な接客術。そして実態は、
「天使の契約書を法的にねじ曲げて所有権を得る」
「悪魔より交渉が上手く、しかも法を破らない」
という“最凶の紳士”。ジールが「哀れな少女」となるのも納得の展開だ。
けれど、そんな彼に真っ向から反論するジールの姿が、読者の胸をすかっとさせる。
「あなたがどんなに頭が良くても、私はあなたの手駒にはなりません」
知識と理性で戦う少女の成長譚としても、本作は一級品だ。
魔導書×契約×騙し合い=知的エンタメの極致!
かいとーこ氏による物語は、魔導書の世界設定が異様に濃密。
特に魔導書の種類、印章魔術、天使と悪魔の権能、魔術契約法など、まるで架空の法体系が本当に存在するかのような緻密さ。
それらを武器にしたジールとアンセルの“交渉”は、一種の知的ゲームでもある。
勝ったのはどちらか? 読者の判断に委ねられるラストの余韻もまた秀逸。
すがはら竜氏のイラストが加速させる、“危うさ”と“尊さ”の両立
ジールの繊細さと芯の強さ、アンセルの冷たくもどこか優しげな眼差し。
モノクロの挿絵にすら熱を感じる構図は、読むたびに深く印象を残す。描き下ろしマンガでは、ジールがアンセルに一矢報いる“あの瞬間”が描かれており、原作読者必見の一幕となっている。
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『魔道書店の稀書目録 ペンの天使に悪魔の誘惑』は、魔術と理性と誘惑が交錯する、“知的にエモい”傑作ファンタジー。
交渉の余地はある。ただし、“心”だけは、契約に縛られない――その一文が、きっとあなたの記憶に残る。


